当研究所ではこれまで、GEMFOREX運営主体やその変遷、GEMFOREXが利用していた収納代行・決済代行会社について、調査会社による調査に基づき客観的情報を掲載してきました。

GEMFOREX自身が公開してきた情報によれば、令和5年7月31日、Galaxy Daoに対して経営権の譲渡を行ったとのことでした。

そして、同年11月21日付のGalaxy Daoの公式Discordによれば、GEMFOREXが、Merrick Mirror Holdings (米カリフォルニア州)とVirtus Logic Consulting & Services Inc. (米カリフォルニア州)を被告として、アメリカで、損害賠償請求訴訟を提起したとのことでした。

さらに、その約1か月後の同年12月26日付のGalaxy Daoの公式Discordによれば、GEMFOREXが、アメリカで破産申立をしたとの情報が公表されました。

これらの情報が事実であれば、従前、GEMFOREXと取引してきた顧客(債権者)としては目をつぶることができない状況であると考え、当研究所では、これらの動きが何を意味するのか、今後、どのように流れていくのかについて考察することとしました。

公表されている情報

これまでに公表されている情報の概要は以下のとおりです。

日付 公開内容 事業継承詳細
2023年5月15日 決済代行会社による計60億円の持ち逃げと未払いが発生していることを発表
※公開内容はGEMFOREX(1-調査の契機)に記載しているとおりです。
2023年5月25日 M&Aによる事業継承の協議開始
※お知らせ全文についてはこちらをご参照ください。
交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGemTrade LLCの全株式を取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引継ぎ
・財務状況整理
2023年5月31日 サービス停止を発表
※お知らせ全文についてはこちらをご参照ください。
前回より変更なし
2023年6月1日 お知らせの更新 前回より変更なし
2023年6月6日 お知らせの更新 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGemTrade LLCの株式100%取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引継ぎ
・財務状況整理
2023年6月15日 お知らせの更新 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGemTrade LLCの経営権と事業継承権取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引継ぎ
・財務状況整理
2023年6月21日 お知らせの更新 前回より変更なし
2023年6月26日 お知らせの更新 前回より変更なし
2023年7月11日 お知らせの更新 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGem Trade LLCの経営権と事業継承件取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引き継ぎ
・財務状況整理
・サービス再開
2023年7月24日 お知らせの更新 買収合意金額:650,000,000ドル・買収先がGem Trade LLCの経営権と事業継承件取得
・Gem Trade LLCの全顧客引き継ぎ
・財務状況整理
・サービス再開
2023年7月31日 M&Aによる経営権譲渡及び事業継承に関するお知らせ
※お知らせ全文についてはこちらをご参照ください。
買収合意金額:650,000,000ドル・買収先がGem Trade LLCの経営権と事業継承件取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引き継ぎ
・財務状況整理
・サービス再開
経営権譲渡日:2023年7月31日
2023年8月1日 Galaxy DAOへ事業譲渡完了
2023年8月15日 GalaxyDAOが、ホワイトペーパーV1を公開(※1)
2023年8月28日 GalaxyDAOが、GEMFOREXの顧客データの移行が完了したことをDiscardで報告しています。
また、GEMFOREXユーザーへの出金対応として、GBOND(GEMFOREX Bond)というトークンを発行するとしています。
2023年10月31日 GalaxyDAOが、ホワイトペーパーV2を公開(※2)
2023年5月15日
公開内容 決済代行会社による計60億円の持ち逃げと未払いが発生していることを発表
※公開内容はGEMFOREX(1-調査の契機)に記載しているとおりです。
事業継承詳細
2023年5月25日
公開内容 M&Aによる事業継承の協議開始
※お知らせ全文についてはこちらをご参照ください。
事業継承詳細 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGemTrade LLCの全株式を取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引継ぎ
・財務状況整理
2023年5月31日
公開内容 サービス停止を発表
※お知らせ全文についてはこちらをご参照ください。
事業継承詳細 前回より変更なし
2023年6月1日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 前回より変更なし
2023年6月6日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGemTrade LLCの株式100%取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引継ぎ
・財務状況整理
2023年6月15日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGemTrade LLCの経営権と事業継承権取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引継ぎ
・財務状況整理
2023年6月21日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 前回より変更なし
2023年6月26日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 前回より変更なし
2023年7月11日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 交渉提示金額:1,000,000,000ドル・買収先がGem Trade LLCの経営権と事業継承件取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引き継ぎ
・財務状況整理
・サービス再開
2023年7月24日
公開内容 お知らせの更新
事業継承詳細 買収合意金額:650,000,000ドル・買収先がGem Trade LLCの経営権と事業継承件取得
・Gem Trade LLCの全顧客引き継ぎ
・財務状況整理
・サービス再開
2023年7月31日
公開内容 M&Aによる経営権譲渡及び事業継承に関するお知らせ
※お知らせ全文についてはこちらをご参照ください。
事業継承詳細 買収合意金額:650,000,000ドル・買収先がGem Trade LLCの経営権と事業継承件取得
・Gem Trade LLCの全顧客を引き継ぎ
・財務状況整理
・サービス再開
経営権譲渡日:2023年7月31日
2023年8月1日
公開内容 Galaxy DAOへ事業譲渡完了
事業継承詳細
2023年8月15日
公開内容 GalaxyDAOが、ホワイトペーパーV1を公開(※1)
事業継承詳細
2023年8月28日
公開内容 GalaxyDAOが、GEMFOREXの顧客データの移行が完了したことをDiscardで報告しています。
また、GEMFOREXユーザーへの出金対応として、GBOND(GEMFOREX Bond)というトークンを発行するとしています。
事業継承詳細
2023年10月31日
公開内容 GalaxyDAOが、ホワイトペーパーV2を公開(※2)
事業継承詳細

※1 ホワイトペーパーV1
https://galaxy-dao-1.gitbook.io/docs/

ホワイトペーパーV1では、事業継承内容について下記のように記載されています。

事業継承の概要
Galaxy DAOは、セントビンセント・グレナディーン諸島を拠点とするGemtrade LLC(SVG FSA登録番号1335 LLC 2021)を買収します。Gemtrade LLCとその取引プラットフォームであるGEMFOREXが保有する全ての債権、債務、ユーザー情報はGalaxy DAOに譲渡されます。
譲渡日は日本時間2023年8月1日午前10時です。
買収後、Gemtrade LLCはGalaxy DAOに完全に吸収され、Gemforex取引プラットフォームは存在しなくなります。

※DeepLによる翻訳です

※2 ホワイトペーパーV2
https://galaxy-dao-1.gitbook.io/wp-v2/

ホワイトペーパーV2では、Galaxy DAOの主軸サービスであるTrade Planetsのリリース時期やDAOの利益分配方法などが明記されているものの、ユーザーへの返金に関する内容には具体的に触れられていません。

事業継承の概要
Galaxy DAOは、すでにFX取引に関心があることが証明されているユーザーを引き継ぐことでTrade Planetsのユーザーベースを迅速に増加させるために、かつてのFX取引所GemForexを運営するGemTradeLLCを買収しました。元GemForexユーザーは、GemForexが2022年後半に支払能力に問題が発生した際、取引口座を凍結され、出金を停止されました。その結果、元GemForexトレーダーは取引所内で保有する信用権利を利用することができませんでした。Galaxy DAOは、GemForexが直面した問題のために元トレーダーが受けたフラストレーションを理解しており、すべての元トレーダーにGemForex内での信用権を表すトークンを発行し、ユーザーに様々な利益を与えます。

※DeepLによる翻訳です

考察

以上の公表されている情報を踏まえ、アメリカでの破産申立てとの関係を主軸として考察しました。

なお、現状、GEMFOREXが本当にアメリカで破産申立てをした事実は確認できていません。あくまで、Galaxy DAO が、GEMFOREXがアメリカで破産申立てをしたと公表したため、仮にこれが事実であった場合にどういう意味を持つのか、という仮定的な視点で考察したものです。

1 アメリカの破産制度

まず、アメリカの破産制度はどのようなものなのでしょうか。

(1)アメリカの破産制度

アメリカにおいて、すべての破産手続は、「連邦破産法」に基づいて連邦裁判所で処されます。

※連邦裁判所
アメリカには連邦裁判所と州裁判所があり、連邦法による手続は連邦裁判所が管轄します。連邦裁判所には、日本と同じように、最高裁判所、控訴裁判所、地方裁判所等があります。
連邦裁判所と州裁判所の違いについてはこちらをご参照ください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E9%80%A3%E9%82%A6%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80

破産にはさまざまな種類があります。
アメリカの連邦破産法では、第7章(Chapter 7)「清算」、第11章(Chapter 11)「更生」、そして第13章(Chapter 13)「定期的収入のある個人の債務整理」の3つの主要な章があります。

日本における破産法にあたるのは、第7章(Chapter 7)「清算」です。

(2)破産管財人による柔軟な権限行使

アメリカでも、日本の破産法と同様、破産管財人(trustee)のシステムがあります。
破産管財人は、破産申立人の財産と財政状況を調査し、返済のために換金(換価)できる財産とできない財産に分け、前者については換価し、債権者に弁済します。
このシステム自体は、日本の破産管財人とほぼ同様です。

ただし、破産管財人の権限行使について、少し違いがあります。

日本では、破産管財人の権限行使のうち一定のものについては、破産裁判所の許可が必要であり(破産法78条2項。たとえば、不動産の任意売却、訴えの提起、和解など。)、該当の行為を裁判所の許可なく行った場合は無効とされます(同条5項)。
日本の破産法が破産管財人の一定の権限行使について裁判所の許可を必要とした趣旨は、裁判所の破産管財人に対する監督(破産法75条1項)を確実なものとすることにあります。

破産法75条1項
破産管財人は、裁判所が監督する。

破産法78条2項
一 不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却
(中略)
十 訴えの提起
十一 和解又は仲裁合意

他方、アメリカでは、日本の破産法75条1項、78条2項に相当する条文はありません。
したがって、アメリカでは、日本に比べて、破産管財人がより柔軟に権限行使ができると考えられます。

(3)破産管財人による否認権行使

破産管財人の否認権とは、破産者が破産手続開始前にした行為の効力を否定することができる権限のことです。
破産管財人が否認権を行使すると、破産者から財産を受け取った者は、その財産を破産管財人(破産財団)に返還しなければなりません。

本記事に関連するアメリカの破産管財人の否認権は以下のとおりです。

①債務者がその資産移転の時点で債務超過であった場合
②資産移転が破産申立て前90日間の期間内にされた場合
③破産申立ての前2年以内に債権者を害するまたは欺罔する意図をもって行われた場合
④破産申立ての前2年以内に、対価として債務者が受領した金額が合理的な額を下回っており、かつ、当時、債務者が債務超過であった場合

上記のほかにも否認権行使のパターンがあり、また、アメリカと日本では、破産管財人の否認権行使について、行使できる期間や具体的な要件に細かい違いはあるようですが、本記事では省略します。

(4)債務免除・解散のシステム

第7章(Chapter 7)「清算」の手続が完了すると、債務の免除を受けることができます。法人の場合、通常、手続が完了すると解散となります。

2 アメリカの破産申立の要件と、手続の開始

アメリカの破産手続には、日本と異なる大きな特徴が2つあります。
1つは、日本のように破産申立の要件が不要であること、もう1つは、破産申立により一切の取立行為が自動的に禁止されること(Automatic Stay)です。

(1)破産申立の要件が不要であること

日本では、破産申立てがなされた後、一定期間を置いて、「破産手続開始決定」という裁判所の決定が出ます。この決定により、破産手続が公的に開始されます。
(「一定期間」の間、裁判所が事案を検討したり、申立書や添付書類のチェックをします。)

この「破産手続開始決定」を受けるための要件として、日本では、法律上、破産原因(「支払不能」ないし「支払停止」)が要求されます(破産法15条1項、2項)。
ごく単純に言えば、上記は、債務者が債務超過であることを意味します。

破産法15条
1 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。

他方、アメリカでは、日本と異なり、破産原因(支払不能や債務超過)があることは、破産申立の要件ではありません。

※厳密に言えば、債権者による申立に対して債務者が異議を唱えた場合については、債務者が期限の到来した債務を支払っていない場合など一定の要件を満たす場合にのみ、裁判所が倒産手続開始命令(order for relief)を下しますが、この記事では債務者が破産申立をした場合に限定します。

そして、アメリカでは、債務者による申立の場合には自動的に倒産手続開始命令があったとみなされます。
つまり、アメリカでは、裁判所の決定を要せず、債務者が破産を申立さえすれば、自動的に破産手続開始の効力を生じます。
(但し、実際に債務免除・解散となるか否かは別問題であり、その後の破産管財人の調査や意見などに拠ります。)

(2)破産申立により一切の取立行為が自動的に禁止されること(Automatic Stay)

もう一つの大きな特徴は、破産申立があれば、債権者による一切の取立て行為が自動的に禁止されること(Automatic Stay)です。
Automatic Stayにより、破産を申し立てた債務者の財産が包括的に保全され、債権者の債権回収行為に加えて、担保権の実行や相殺も禁止されてしまいます。

破産申立以降は、破産手続において、裁判所の許可を得なければ債権回収や担保権実行はもとより、破産申立前に債務者に対して取得している確定判決の強制執行もできません。

上記(1)の、破産申立の要件が不要ということを踏まえると、アメリカの破産制度では、債務者の側が、自身に破産申立の効力が生じるタイミングを選択できる、ということを意味すると考えられます。

3 GEMFOREXの破産申立に関して

以上を踏まえ、GEMFOREXが本当にアメリカで破産申立をしていた場合について考察していきます。

(1)GEMFOREXが破産申立前に提起していた訴訟について

本記事の冒頭で記載したとおり、Galaxy Daoの公式Discord によれば、

(令和5年11月21日付発表)
GEMFOREXが、Merrick Mirror Holdings (米カリフォルニア州)とVirtus Logic Consulting & Services Inc. (米カリフォルニア州)を被告として、アメリカで、損害賠償請求訴訟を提起した。

(同年12月26日付発表)
GEMFOREXが、アメリカで破産申立をした。

とのことでした。

この2つの訴訟が本当に提起されているか否か、提訴日がいつなのか、具体的にはどのような請求なのか等は現在調査中ですが、仮にこの2つの訴訟が破産申立前に提起されていた場合、破産管財人が訴訟を受継して当事者となり、対応することになります。

破産管財人は、上記のとおり、債権者に支払をするために債務者の財産を換価する権限を有しています。
したがって、その目的を達成するための訴訟対応をするのが一般的です。

もっとも、訴訟の進行は破産事件の進行にも影響します。
すなわち、通常の訴訟は、基本的には、当該訴訟おいて求めた金銭の獲得を目的として、ある程度じっくり対応することも可能です。
しかし、破産事件は、最終的な破産処理(個人で言えば免責、法人で言えば解散)を目的として、他の財産や、債権者の整理・対応など、訴訟対応以外にも処理しなければならない事項が多々あります。そのうえ、破産手続をいつまでも宙ぶらりんな状態にしておけないので、基本的には迅速処理が要求されます。

したがって、破産管財人は、通常の訴訟対応にはない視点である迅速処理の要請との兼ね合いで訴訟対応をしなければなりません。
特に、訴訟が長期化し、当該訴訟だけを理由に破産事件が長期化するというときは、場合によっては、破産事件全体の進行に鑑み、裁判所や債権者の意見を取り入れながら、通常の訴訟と比較して柔軟な結論(通常よりも減額した和解など)を出す可能性もあり得るところです。

上記の、GEMFOREXの2つの訴訟も、破産管財人が受継して対応することになりますが、破産管財人が、破産事件の進行に鑑み、通常よりも減額した和解をした場合には、減額した分だけGEMFOREXの財産が目減りすることになります。
この点においては、GEMFOREXの債権者に不利な内容での和解という理解になります。

(2)GEMFOREXが破産申立前に譲渡していた営業権について

上記のとおり、公表されている情報によれば、GEMFOREXは、令和5年7月31日付で、Galaxy DAOに経営権を譲渡したとのことでした。
この経営権譲渡は、破産手続においては、否認権としての検討対象となると考えられます。

ここで、繰り返しになりますが、本記事に関連するアメリカの破産管財人の否認権は以下のとおりです。

①債務者がその資産移転の時点で債務超過であった場合
②資産移転が破産申立て前90日間の期間内にされた場合
③破産申立ての前2年以内に債権者を害するまたは欺罔する意図をもって行われた場合
④破産申立ての前2年以内に、対価として債務者が受領した金額が合理的な額を下回っており、かつ、当時、債務者が債務超過であった場合

破産手続においては、破産管財人が、Galaxy DAOに対する経営権の譲渡が上記のような否認対象行為に該当するか否かを検討し、該当するということであれば否認権を行使し、Galaxy DAOから経営権を取り戻す(実際にはお金の賠償という形もあり得ると考えられます。)ということになると考えられます。

(3)否認権についての一考察

今回の事象について、情報の公表レベルで時系列を追うと、まず、GEMFOREXの経営権・事業の譲渡が公表されたのが令和5年8月1日です。
そして、GEMFOREXの破産申立について公表されたのが、その約5か月後の同年12月26日です。
ただし、実際に破産申立がなされた日は不明です。

あくまで公表日をベースとしていますが、否認権(上記(2))との関係で、期間だけを見ると、②には該当しないということになります。

さらに、GEMFOREXが、Merrick Mirror Holdings (米カリフォルニア州)とVirtus Logic Consulting & Services Inc. (米カリフォルニア州)を被告としてアメリカで損害賠償請求訴訟を提起したと公表されたのは、令和5年11月21日であり、GEMFOREXの破産申立が公表された同年12月26日のわずか1か月前です。
ただし、実際に訴訟提起がなされたか等の詳細は、現時点では不明です。

あくまで推測ですが、この2つの訴訟提起をすることで、GEMFOREXのユーザーに対して、回収見込みがある何らかの請求権の存在を示し、さらには、対外的に、経営権の譲渡時に、GEMFOREXが債務超過ではなかったこと、経営権の譲渡は債権者を害するものではなかったことなどを示し、否認権①③を回避する意図があった可能性も考えられます。

なお、否認権④との関係では、買収合意金額が650,000,000ドルであることを除き、経営権譲渡の具体的内容が不明ですので評価し難いですが、破産管財人は、この合意金額の合理性については問題意識を持つものと考えられます。

4 まとめ

以上のとおり、アメリカの破産手続やその特徴などを踏まえると、GEMFOREXがアメリカで破産申立をしたという事象が事実であれば、破産管財人が問題意識を持つべき事実経過が複数あると考えられます。

そもそも、GEMFOREXが本当に破産申立をしたのか、なぜアメリカなのか、なぜこの時期なのか、2つの訴訟提起は本当にしているのかなど、情報を受ける側として素朴な疑問が多々あります。
これらの点についても、客観的情報が判明すれば、掲載していきたいと思います。