決済代行業者の法的責任2~財産調査

決済代行業者の法的責任1~民事執行」の記事の中で、無登録事業者としての決済代行業者の民事責任、特に民事執行について考察しました。

今回は、その記事の続編として、民事執行の前提となる財産調査について考察したいと思います。


所在調査

財産調査の前提として、そもそも相手方(個人)がどこにいるのか(=所在調査)、というところから調査しなければならないことがあります。

所在調査の方法としては、以下の方法が考えられます。

(1)職務上請求
(2)23条照会(弁護士法23条の2に基づく照会)
(3)現地調査

(1)職務上請求

所在調査として最もスタンダードなのは、職務上請求です。

職務上請求とは、弁護士など、一定の国家資格を有する者が、その受任した職務を遂行するために必要な範囲で、第三者の住民票・戸籍謄本等を請求・取得することができる制度です。
根拠規定は、戸籍法10条の2第3項~第5項、住民基本台帳法12条の3第3項等です。

この制度により、第三者の住民票や戸籍謄本等(住民票上の住所の変更履歴がわかるのは「戸籍の附票」になります)を順次取得していき、関係者(個人)の所在を把握することになります。

なお、「順次取得」と言うのは、わが国の住民票制度や戸籍制度では、相手方の所在を1度で網羅することは困難な場合が多いということです。
転居をすれば住民票が移動しますし、婚姻や離婚による従前戸籍の入籍除籍、新戸籍の編成などの制度設計がされているためです。

職務上請求が最も活躍するのは、遺産分割事件などで相続人調査を行うときですが、遺産分割など親族を調査する場合でなくても利用できます。

但し、利用できるのは、あくまで「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」(たとえば戸籍法10条の2第3項)に限られます。
これはもちろん、この制度が第三者のプライバシー情報を取得する制度であるためです。

したがって、「必要」がないのに取得すれば違法になる場合もありますし、この制度の濫用行為は、士業において懲戒事由にもなり得ますので、慎重に利用しなければならない制度であることは言うまでもありません。

但し、最新の住所や、住所の変更履歴を辿ることが可能なのは、住民票を移転した場合(転出・転入)のみです。
(この移動の履歴が、当人の本籍地の「戸籍の附票」に記載されるのです。)

転居すると、住民票も移動するのが通常ですが、住民票を移動しない人もおり、役所がその全員を見つけ出し、移動を強制することを強制することは事実上不可能です(※)。

※住民票の移動の手続きは、転入をした日から14日以内に届出を行わなければならないとされており、これを怠ると最高5万円の行政罰を受けることがあります(住民基本台帳法22条、52条)。

したがって、相手方が、意図的に居場所を特定されないように転居したにもかかわらず住民票を移動しなかった場合、最新の住所や住所の変更履歴を辿ることは難しくなります。
この場合、当人は行政罰を受ける可能性がありますが、行政罰の対象となったからと言って、最新の住所がわかるわけではないのです。

この点が、職務上請求による調査の限界と言えるでしょう。

決済代行業者との関連では、決済代行業者の登記情報を閲覧して、代表者個人の住所を特定できた場合に、上記の職務上請求によってその代表者個人の所在調査を進めていくことになります。

しかし、相手は無登録事業者ですから、登記情報上の住所がダミーであった場合はもとより、代表者が転居して住民票を移動していない場合には、職務上請求による調査の限界に引っ掛かり、最新の住所は特定できない可能性もあります。

(2)23条照会

職務上請求は、国内の住民票・戸籍の制度を利用した制度であるため、国内の所在調査に限定されます。

調査対象の個人が海外に在住する場合、いわゆる23条照会を利用します。

23条照会とは、弁護士からの申請に基づき、当該弁護士が所属している弁護士会が、官公庁や企業などの「公私の団体」に対し、ある事実の回答を求める制度です。
弁護士法23条の2に法的根拠があるため、「23条照会」と呼ばれています。

※弁護士法23条の2
第1項「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。」
第2項「弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」

※なお、23条照会には、弁護士会に支払う手数料として、9000円程度の費用がかかります。

弁護士会から照会申出をされた各機関には、原則として、その照会事項に回答する義務があるものとされています。
また、回答は、「法令に基づく」回答ですので、本人の同意なく開示したとしても、個人情報保護法の規定には違反しません(個人情報保護法23条1項1号参照)。

海外在住の日本人の所在を、23条照会で、外務省を照会先として調べることができることがあります。

但し、必ず所在が判明するわけではありません。
外務省は、在外公館が保有する情報に基づいて回答します。
そのため、在外公館を限定するために、まず、国(あるいは地域)を限定する必要があります。
また、外務省は、対象者に、連絡可能な親族の所在が判明している場合には回答に応じてくれないので、まずは当該親族の所在確認を行う必要があります。(国内であれば、上記の職務上請求を試みる、ということになるでしょう。)

このように、23条照会でも一定のハードルがあります。

決済代行業者との関連では、決済代行業者の代表者個人が海外に所在する場合に23条照会を利用することが考えられますが、そもそも無登録事業者ですから各国を転々としている場合も考えられます。
また、どこの国(あるいは地域)にいるのか、ということが判明していなければ調査自体が困難になりますし、仮にそれが判明しても、親族の所在不明の要件を満たすこと(及びその前提となる所在調査にも時間を要します)が必要です。

(3)現地調査

決済代行業者が法人であれば、少なくとも、本店所在地、支店所在地、代表者個人の住所地は登記情報で判明します。

そこで、登記情報上の各所在地を実際に訪れてみることも、有益な場合があります。

私どもも、調査会社に依頼するなどして、登記情報上の所在地を訪れ、現地調査として、実際に現地がどうなっているのか、看板の存否や従業員の存否など、法人の実態があるのか、運営しているのかという視点で調査を行うこともあります。

たとえば、当サイトの「GEMFOREX(5-主体の調査④)」で照会した例などが、それにあたります。

実際に現地を訪れないとわからないこともありますので、有益な調査方法であると考えています。
もちろん、無登録事業者ですから、現地は「もぬけの殻」であることもありますし、ダミーの可能性もあります。それはそれで、経営実態がないことの裏付けにはなりますが、財産調査としては空振りということになります。


財産調査

相手方が誰かということがわかれば、実際に財産の調査を行うのが有益です。

なお、この記事では、裁判を起こす前の段階における調査を前提とします。
裁判中、あるいは裁判後に相手方が財産を隠匿することがあり、その場合には、せっかく裁判で勝訴しても裁判後の民事執行が奏功しないという場合があるからです。
(そのようなことを未然に防ぐ方法が「民事保全」です。「民事保全」については別の記事にします。)

調査には、ある程度、時間も費用もかかりますし、後記のとおり調査の限界もあります。
ただ、調査の結果、何も財産が見つからず、裁判で勝訴しても意味がないのではないかという見通しが立った場合に、事件全体の方針を決めるための重要な要素になり得る調査ではあります。

(1)口座の調査

ア 23条照会

相手方が保有する口座情報を取得するために、23条照会を利用する場合があります。
弁護士会が照会申出を認めるのは、基本的に勝訴判決を取得した後に、同判決に基づいて強制執行する場合が原則ですが、勝訴判決取得前の財産探索的な照会申出であっても、一律に認めないわけではないと思われます。

勝訴判決を取得した後の照会申出を認める理由は、判決により権利の存在が確認できるからです。
逆に、勝訴判決を取得する前は、権利の存在が不明確であり、後に裁判で権利の存在が否定される可能性があるため安易に照会を認めてもらえないわけです。

したがって、これを認めてもらうためには、財産探索的な照会をすることの必要性、相当性を、疎明資料の提出とともに相当程度立証する必要があり、口座の情報(支店名、口座番号、口座名義人、残高など)を取得するだけでもハードルが高いと思われます。

さらに、口座の情報のみならず、具体的な取引履歴が欲しい場合もあると思われますが、これは情報の具体性が増すので、さらにハードルが高いと思われます。

決済代行業者との関連では、資金を預けている状態であり、もともと振込先となっている口座は判明している状態ではありますので、口座の調査は不要な場合もあると思われます。

しかし、その口座は多数の被害者において判明していますから、別の口座を調査する必要はあるかもしれません。
その場合、上記のようなハードルがあるということになります。

また、決済代行業者がダミー口座を保有している場合、残高が残っていないこともあり得ます。

イ 探偵による調査

探偵を使って口座を調査する場合もあり、場合によっては23条照会よりも有益な情報が出てくることもあります。

探偵が実際にどのような調査を行っているかは不明ですが、23条照会よりも高額な費用がかかることは間違いありませんので、費用倒れになることも想定しなければなりません。

決済代行業者がダミー口座を保有している場合のリスクは、23条照会の場合と同じです。

ウ インターネットによる調査

そもそも決済代行業者がホームページを起ち上げている例は皆無と行っても過言ではないでしょう。

もし決済代行業者がホームページを起ち上げている場合、当該ホームページに取引先金融機関の記載があれば、有用かもしれません。

もっとも、一般論として、インターネット上の情報の信ぴょう性の問題のほか、本当に取引がある金融機関を掲載しているか、という点は至極疑問です。

(2)売掛金の調査

相手方の第三者(第三債務者)に対する売掛金が、差押えの対象にあることは、「決済代行業者の法的責任1~民事執行」の記事で紹介しました。

もっとも、売掛金の存在という具体的な取引に関する情報は、通常は表に出ませんから、23条照会や、探偵調査で調査するのは、極めて困難でしょう。

(3)不動産の調査

「決済代行業者の法的責任1~民事執行」の記事の「不動産執行における注意点」、(1)で紹介したとおりです。


まとめ

以上、無登録事業者を債務者とする強制執行の前提となる所在調査、財産調査について考察しました。
無登録事業者を相手とする場合に、これら調査がいかに困難かがおわかりになったかと思います。
FXや暗号資産取引なども含め、くれぐれも無登録事業者とは取引しないようにしていただきたいと思います。