無登録海外FX業者による出金停止への対処方法

出金停止について

「無登録海外FX業者」で取引する場合、社内体制における内部管理・内部監査が確立されているか明確でない、そのため資金管理が適切になされていない可能性が高い、資産内容を公開していないため資産状況・経営状態が不明、経営実態を容易に把握できない、法人登記・登録情報を完全に把握することが困難な場合が多い、所在地・連絡先が不明、個人情報の管理が杜撰、日本語サイトがあっても日本語が通じるとは限らない、取引ルール・入出金ルールが複雑でわかりにくいなどのリスクがあります。

このような「無登録海外FX業者」とは取引しないのが最も重要ですが、もし取引を行ってしまい、出金停止になってしまった場合、実は詐欺被害であったということも考えられます。

今回は、そのような詐欺被害に遭ってしまった場合、どのような対処方法が考えられるか、また、弁護士として、どのような情報や証拠が必要か、という観点で検討しました。

なお、実際の事件は「水物」であり、一つとして同じ事件はありません。
後記の民事責任や刑事責任における法律構成はあくまで一例であり、実際の事件における法律構成は、実際に依頼を受けた弁護士の考え方次第です。

このページでは、あくまで一般論として、「無登録海外FX業者」による出金停止という事態に遭遇してしまった場合の対処方法を紹介したいと思います。


このような問題が発生した場合どのように対処すればいいのか

1 当該業者の実態等の把握

まず、自分が取引した業者が、どのような業者であったのか、社内体制・経営実態は把握できるか、法人登記・登録情報を完全に把握できるか、どこの国のどのようなライセンスを持っているのか(あるいは持っていないのか)、資金管理や信託保全は適切かなど、今一度、調査と検証をしてみる必要があります。

この点は、そもそも取引を行う前に確認すべきことですが、取引中や取引後に、いつの間にか経営主体が変わっていたりすることもあります。
当該業者の経営実態がどのような変遷を辿ったのかという事実関係が重要になってくる可能性もありますので、あらためての調査をおすすめします。

なお、ウェブサイトの過去の履歴をキャッシュし保存・提供する、WaybackMachine(https://archive.org/web/ )も有用です。

2 当該業者とのやりとりなどの証拠集め・整理

当該業者の責任を追及するため、また、事件を有利に進めるためには、情報と証拠が重要です。「情報と証拠がすべて」と言っても過言ではありません。
情報は具体的事実(5W1H)であり、証拠は具体的事実を示す資料のことです。

詐欺行為は、相手をだます意思の発現であると評価できる言動(具体的事実)の積み重ねで証明することが多いと思います。
したがって、そのような言動(具体的事実)を、さまざまな証拠に基づき証明していく必要があります。

取引を行うわけですから、当然、当該業者との間で、何らかの具体的やりとりが生じているはずです。
インターネットが普及している現状において、やりとりは主に、電子メールSNSサイト上でのメッセージ交換など、客観的記録が残る媒体でなされていることが多いと思います。
これら客観的記録は、訴訟でも十分に証拠になり得ます。
プリントアウトするなど、形として残しておくようにしておくとよいと思います。くれぐれも感情的にならず、削除などしないようにしましょう。

なお、媒体によっては、やりとりの履歴を削除することができるものもあるようです(LINEなど)。
このような媒体を使用してやりとりをしていた場合、相手が削除してしまう前にプリントアウトするなどして、早期に証拠を保全しておくことが重要です。

担当者と口頭でやりとりをしたり、電話で具体的なやりとりをしたりすることもあるかもしれません。
このやりとりを、録音する場合もあると思います。
以下ではこの点について、①録音したとき、②録音していないとき、の2パターンに分けて説明します。

①録音したとき

録音の方法として、相手の同意を得て録音する場合と、相手の同意を得ないで録音する場合(いわゆる秘密録音。無断録音、無許可録音と同義。)があります。

相手の同意を得た録音

法的に何も問題なく、証拠にもなり得ます。
相手が録音に同意をした発言も録音できればベストです。

相手の同意を得ていない録音(いわゆる秘密録音

秘密録音は、会話当事者の一方が相手の同意を得ないで会話を録音することです。

※秘密録音は、人の会話をひそかに聴取ないし録音する「盗聴」とは異なります。
「盗聴」は、それ自体を取り締まる法律はありませんが、盗聴の仕方によっては、刑法や、電波法などの情報通信関係法令に抵触し違法になる可能性があります。(たとえば、他人宅に侵入しコンセントを破壊して盗聴器を仕掛けた場合、住居侵入罪(刑法130条)や器物損壊罪(刑法261条)に該当することになります。)

では、相手の同意を得ないで録音することは違法ではないか、という点についてですが、刑事事件についての、最高裁第二小法廷平成12年7月12日判決は、以下のとおり判示し、秘密録音の違法性を否定し、秘密録音された録音テープの証拠能力を認めています。

「本件で証拠として取り調べられた録音テープは、被告人から詐欺の被害を受けたと考えた者が、被告人の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするため、被告人との会話を録音したものであるところ、このような場合に、一方の当事者が相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく、右録音テープの証拠能力を争う所論は、理由がない。」

刑事事件においては、違法収集証拠排除法則という決まりがあり、この法則が適用されてしまうと、事実認定の証拠として採用されませんが、上記最高裁判決は、録音テープが違法収集証拠に該当しないと判断したのです。

※違法収集証拠排除法則は、刑事訴訟法に直接の根拠条文はありませんが、違法に収集された証拠で刑事裁判の事実認定を行うのは司法の信頼性を失うこと、将来の違法捜査抑止、そして、適正手続(憲法31条)を根拠に、当該証拠の証拠能力を排除して、事実認定の根拠としない法則です(最高裁昭和53年9月7日判決参照)。

※憲法第31条「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」

他方、民事事件には、刑事事件における違法収集証拠排除法則のような法則はありませんので、一般論として、民事事件は刑事事件に比べて証拠の採否の考え方が甘い(証拠は、判決の事実認定に使われるかは別として、提出すれば基本的に採用される)と言われています。

したがって、民事事件において、ほとんどの場合、秘密録音の違法性は問題にならず、証拠として認められることが多いと思われます。

ただし、相手が録音データの改竄を主張したり、録音データの内容について疑義を唱えたりすることもあります。
その場合は、証拠として認められるかが争点の一つとなり、場合によっては、鑑定(民事訴訟法221条1項)が行われる場合もあります。

ところで、上記最高裁判決は、全ての秘密録音の違法性を否定するわけではないでしょう。
たとえば、法廷内での裁判所の許可を得ない録音などの、録音することが法的に禁止された場所での秘密録音や、機密性が高い会議での録音などの、信義則(民法1条2項)に反する秘密録音など、反社会的に録音行為がなされた場合は、録音データの証拠能力は低いとされる可能性が高いと思われます。
もっとも、詐欺業者との会話の録音が、上記のような、録音データの証拠能力が低いとされる状況で行われる可能性は低く、秘密録音を行ったとしても証拠として使える可能性が高いと考えられます。

したがって、担当者と口頭でやりとりをしたり、電話で具体的なやりとりをしたりすることがあれば、相手の同意を得なくても、録音しておくことが有益と考えられます。

録音日時の重要性

録音は、固定電話機、スマートフォン、ボイスレコーダーなどで、録音日時も正確に記録して行うことが有益です。
「会話の日時」という事実が重要な意味を持つことがあるからです。

日時のオート設定機能が付いていない媒体を使うときは、録音する前に、日時設定をしっかりしておくことが重要です。

②録音していないとき

録音していなくても、そのときのメモなどがあれば、それも証拠になり得ます。
日常的に日記を付けていて、業者とのやりとりした事実や、やりとりした具体的内容を日記に記していた場合、それも証拠になり得ます。
日記とまでは言わないものの、手帳などに業者とのやりとりをした日時などを記録していた場合は、後日でも構いませんので、会話をした具体的内容を思い出し、その内容を復元したメモを作成してみましょう。
このようなメモも、証拠になり得ます。
ただし、時間が経てば経つほど、人間の知覚・記憶には誤りが介在しやすいです。したがって、復元は早ければ早いほどよいでしょう。


責任追及の内容

1 民事責任

あくまで一例ですが、以下の法律構成が考えられます。
①不法行為に基づく損害賠償請求
②金融商品販売法5条に基づく請求
③消費者契約法4条1項2項の「誤認」による意思表示の取消し+不当利得返還請求

①不法行為(または債務不履行)に基づく損害賠償請求

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。
業者が行った勧誘行為等が詐欺と評価されることにより、被害者が損害を被った財産相当額の損害賠償請求を可能とする法律構成です(東京地裁平成23年2月28日判決・判例時報2116号84頁)参照)。
なお、勧誘行為等を行ったのは業者の従業員であり、使用者である業者がその責任を負うとして、民法715条1項(使用者責任)で構成する場合もあります(大阪地裁平成21年3月4日判決、大阪地裁平成23年12月19日判決等。)。

※民法715条1項「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

②金融商品販売法5条に基づく請求

金融商品販売法5条は、「金融商品販売業者等は、金融商品の販売等を業として行うときは、当該金融商品の販売等に係る金融商品の販売が行われるまでの間に、顧客に対し、当該金融商品の販売に係る事項について、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為(以下この章において「断定的判断の提供等」という。)を行ってはならない。」と規定しています。

業者が、金融商品を被害者に販売するまでに、被害者に対し、たとえば「絶対儲かります」などの断定的なことを述べたり、儲かることが確実であると誤認させるおそれのある事実を告知したことにより、被害者が損害を被った財産相当額の損害賠償請求を可能とする法律構成です。
金融商品販売法施行以前の裁判例ではありますが、大阪地裁平成7年2月23日判決・判例時報1548号114頁は、業者が「必ず儲けさせます。損はさせない。」との趣旨のことを被害者に述べたと認定し、不法行為に基づく損害賠償請求を認めています。

③消費者契約法4条1項2項の「誤認」による意思表示の取消し+不当利得返還請求

消費者契約法4条は、以下のとおり規定しています。

1項
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」

2項
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。」

業者が消費者である被害者に対し、契約の締結について勧誘行為等を行うときに、「重要事項」※について、客観的事実と異なる事実を告げたり、その消費者が受け取るべき金額など変動が不確実な事項について「必ず儲かります」と告げたりしたことにより、消費者である被害者が締結した契約を取り消すことができるとする法律構成です。

※「重要事項」・・・契約締結の判断に通常影響を及ぼす事項をいいます。1項では、契約の目的となる権利の質や内容、2項では対価や取引条件など。

契約が取消になれば契約していなかった状態に戻りますが、それだけではお金は戻ってきません。そこで、不当利得返還請求(民法703条、704条)を行い、お金の返還請求をします。

※民法703条「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
民法704条「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」

2 刑事責任

詐欺(刑法246条1項)による、警察署に被害届または告訴の手続をします。

3 民事責任と刑事責任のどちらを問うべきか

結論として、民事責任と刑事責任は全く違うものであり、法的責任追及の手段として両立します。
したがって、民事責任と刑事責任の両面から責任追及することは可能であり、どちらか一方にすべき、どちらか一方の方が有利ということは、(手間と費用の観点を除けば)ありません。

もっとも、刑事責任を追及しても、(刑事事件のなかで示談する場合を除いて)1円にもなりません。

したがって、事案によっては、民事責任を問いながら、刑事責任も追及することにより、「逮捕されるかもしれない」、「刑事裁判になって、有罪になるかもしれない」という心理的プレッシャーを与え、民事事件において金銭賠償を有利に進める、という戦略もあり得るところです。

もし刑事事件が先行し、裁判で有罪になった場合、民事事件を有利に進める可能性は高まると考えられます。
しかし、刑事事件においても、被害の相談から有罪判決までには一定の期間(場合によっては1年以上)がかかる場合もあると思います。
その間にお金を隠されたり、逃げられる可能性もあり得ます。
そこで重要な法的手段が、民事保全です。
民事保全は別の記事であらためて説明します。

4 時効

法律には、「時効」という概念があります。民事事件の金銭的請求権については消滅時効といい、刑事事件は公訴時効といいます。

民事事件にせよ刑事事件にせよ、法的手続を採るには時間制限があるのです。

民事事件

上記の「1 民事責任」で挙げた①~③について「請求権」というレベルで整理すると、
①不法行為に基づく損害賠償請求権
②(不法行為責任の特別法としての性質を持つ)金融商品販売法5条に基づく損害賠償請求権
③不当利得返還請求権
となります。

①の請求権と、①の特別法としての請求権の消滅時効は、被害者が自分の損害を知ったときから3年です。
なお、被害者が自分の損害を知らなくても、業者の行為が終わったときから起算して20年経過したときも請求できなくなります。(これは消滅時効ではなく除斥期間の経過といいます。)

※民法724条「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。」

③の請求権の消滅時効は、民法改正との関係で、発生日が2020年4月1日以降のものは、次のどちらか先に経過した時点で時効により消滅します。

請求できることを権利者が知ったときから5年(主観的起算点)
または
請求できるときから10年(客観的起算点)

※改正後民法166条「債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。」

発生日が2020年3月31日までのものは、改正前の民法に基づき(改正民法附則10条4項)、改正により追加された主観的起算点による5年は適用されず、請求できるときから10年(客観的起算点)経過した時点で時効により消滅します。

刑事事件

刑事事件には、「犯罪行為が終わった時」を起算点とする公訴時効という制度があります。

※刑事訴訟法253条1項「時効は、犯罪行為が終った時から進行する。」

「公訴」というのは、検察官が、罪を犯したと疑われる人物に対する有罪判決を求めて刑事裁判を提起することをいいます。

したがって、「犯罪行為が終った時」から検察官による刑事裁判の提起までに一定期間が経過してしまうと、犯罪行為を問うことができなくなります。

刑事事件の公訴時効は、当該犯罪行為の法定刑により定められています。
詐欺事件の法定刑は「10年以下の懲役」であり(刑法246条1項)、公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。

※刑法246条1項「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。」

※刑事訴訟法250条2項4号「時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年」


採り得る手段

1 民事責任(金銭的請求)

①交渉(通常は、金銭的請求を内容とする内容証明郵便の発送から始まる)
②裁判
③ADR

※③ADRとは、裁判外での紛争解決手続のことです。
国民生活センターや弁護士会などのほか、金融ADRの専門機関としては、FINMAC(証券・金融商品あっせん相談センター)、全国銀行協会などがあるようです。

2 刑事責任(刑事事件化)

警察署に相談、被害届や告訴状の提出

※警察署は、事件の内容や被害発生地により管轄が決まっていますが、とりあえずは最寄りの警察署に相談するのがよいと思います。


どれぐらいの時間が必要なのか

1 民事事件

①交渉

ステップ1~相談から内容証明郵便の送付まで(約1週間)

相談を受けてから、相談内容に応じた書面を作成することが多いです。
そして、作成した書面は、内容証明郵便で差出すことが多いです。

内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書を、誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本(文書の内容と同じ内容のコピー版)を郵便局が保管することによって証明してくれる制度です。

内容証明郵便の差出方法は2通りあります。どちらの方法でも効果は同じです。

1つめは、郵便局に、同じ書面を3通持参する方法です。
但し、差出窓口は比較的規模の大きな郵便局に限られていること、書式(1ページの字数・行数など)に制限があることに注意が必要です。
詳細は郵便局のホームページ(https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/)をご参照ください。

2つめは、ウェブ上で差出が可能な電子内容証明です。
こちらも書式に決まりがありますが、決まった書式もダウンロード可能であり、ワードで作成したものをウェブ上で差出が可能ですので、窓口に持ち込むよりも簡便です(https://www.post.japanpost.jp/service/enaiyo/index.html)。

内容証明郵便を使う理由として、金銭的な請求をする場合、いつ、どのような内容の請求を、誰が誰に送ったかという事実を証明することももちろんそうですが、遅延損害金の起算日を確定するという意味もあります。

※遅延損害金・・・期限までにお金が支払われなかった場合の損害賠償金

ステップ2~相手からの返事を待つ(約2週間)

内容証明郵便による請求は、通常、支払期限を記載します。
請求に対し、相手が支払うのか支払わないのか、支払うとして期限までに支払うのか、支払わないとしてその理由は何かなど、相手の対応内容を確認する必要があります。
その返事の内容次第で、その後の展開を考えます。

もちろん、返事がない場合もあります。その場合は、もう一度内容証明郵便などで請求してみるのか、それはせず訴訟など法的手続を採るのかを考えます。

ステップ3~交渉(1か月から数か月)

相手から返事があれば、交渉開始です。
交渉は、相手に代理人が就けば、代理人同士で行います。どこか場所を設定し面談で交渉することもあれば、電話で交渉することもあります。書面のやりとりをすることもあります。
もちろん、交渉にあたり、弁護士と依頼者との間で、対応方法について打ち合わせを行います。

交渉は短期間で終わる場合もありますし、数か月かかる場合もあります。

交渉が成立すれば、相手との間で合意書を作成し、支払いを受けて事件終了です。
交渉が決裂すれば次のステップ(②裁判/③ADR)に移ります。

②裁判/③ADR

裁判には、かなりの時間がかかることが多いです。
第一審のみでも、大まかに「訴状提出→訴状送達→第1回期日→第2回期日・・・→判決」という手続があり、判決に至るまで1年以上かかる事件は少なくありません。

ステップ1~訴状提出(1週間~1か月程度)

通常は、交渉決裂後に訴状を作成します。
訴状は裁判所に提出するものであり、ほとんどの場合、証拠も作成して一緒に提出します。
「証拠を作成する」とは、訴状の記載に合わせて既存の資料を順番に整理してナンバリングするだけの場合もありますが、資料をイチから作成する場合(依頼者からの聴き取りが必要な陳述書、報告書など)もあります。
したがって、裁判所に提出する書類を整理するのに多くの時間を要することもあります。

ちなみに訴状と証拠を提出する際は、裁判所用に「正本」と、相手(裁判では「被告」となります)用に「副本」を提出します。

ステップ2~第1回期日まで(スムーズにいっても1か月~2か月程度)

実際に行われる裁判のことを、我々は「期日」と呼んでいますが、訴状を提出したからといって、すぐに裁判が始まり、期日が開かれるわけではありません。

裁判所が、提訴について、最低限の形式面が整っているかをチェックし(「訴状審査」といい、裁判を進めるにあたり必要な書類が整っているかどうかなどをチェックします。)、訴状審査が終わった段階で、裁判所は、第1回期日の日時を原告と調整し、被告にその日時を通知するとともに、訴状と証拠の副本を送達します。
ここまでで、少なくとも1週間~2週間経過することが多いです。

被告に訴状が送達されなければ、裁判を始めることができませんので、送達は非常に重要な制度です。
(送達制度は複雑かつ多様ですので、以下は簡単な説明にとどめます。)

最初の送達は、通常、「特別送達」という特殊な方法で行われます。
「特別送達」は、差出人(裁判所)に送達の事実を証明する制度であり、被告に訴状と証拠が送達されたか否かが、郵便局から裁判所に報告されます。
「特別送達」が無事に完了すると、予定通り、第1回期日が開かれます。

「特別送達」は、基本的に被告による受取が必要です。
被告が意図的に受け取らなかったり、不在のために、保管期間が経過してしまい、特別送達が完了しない場合もあります。
その場合、別の送達方法(付郵便送達、公示送達など)で、あらためて送達しなければなりません。
別の送達方法を採る場合、裁判所から原告に、被告の所在調査などの指示がある場合もあり、その場合は送達までにさらに時間を要することとなります。

このように、送達がスムーズに完了した場合でも、通常は、第1回期日が開かれるまでには1か月~2か月がかかります。
送達がうまくいかないと、さらに数か月かかるということもあります。(この場合、第1回期日は取り消され、延期になる場合もあります。)

ステップ3~第1回期日から判決まで(数か月~1年以上)

裁判では、通常、初回から数回の期日をかけて、当事者双方から主張の応酬が繰り返され、裁判所が争点を整理していきます。
次の回の期日を迎えるにあたり、当事者には、追加の主張書面や新たな証拠を提出する準備期間も必要ですから、通常は、1か月から2か月に1回しか期日が開かれません。
これを数回かけて行うわけですから、争点を整理するだけでも数か月はかかります。
その後、証人尋問や当事者尋問を行う場合、その準備期間を含め、さらに数か月を要します。
したがって、判決に至るまで、1年以上かかるという事件は少なくありません。

もちろん、裁判が進む中で、裁判所や一方当事者から和解が提案されることもあり、和解に至る場合はそれで事件終了ですが、和解に至らず判決となり、さらに、第一審のみでは終わらず、控訴審、上告審まで行うとすると、数年かかることも珍しくありません。

③ADR

裁判とは異なる手続として、ADRもあります。
これは、専門機関が選任した第三者が仲介役として介入し、交渉の延長として話し合いの場を提供する手続です。
一般的に、裁判に比べると、短期間かつ柔軟に進行していくことが多いですが、話し合いがまとまるまで、少なくとも数か月はかかると考えてよいです。
また、せっかく時間をかけても話し合いがまとまらないこともあります。

2 刑事事件

警察がどのタイミングで被害届や告訴状を受理してくれるかにもよりますが、初回の相談から捜査を開始してもらうまで、数か月かかることも珍しくありません。
捜査が進み、さらに刑事裁判となると、1年以上かかることは優に見込まれます。

個人的な経験ですが、証拠が揃っていた傷害事件の告訴事案について、初回の相談から刑事裁判の判決まで1年半を要した事案もありました。
警察内の担当部署の忙しさも影響するとは思いますが、なかなか捜査が進んでおらずやきもきする被害者の方も大勢いらっしゃるというのが実情でしょう。


責任追及のハードル

1 民事責任追及のハードル

「無登録海外FX業者」による出金停止などの事態が、民事上の不法行為などに該当すると言えるためには法律上の要件を満たすことが必要ですが、そもそもそれ以前、入口にもハードルがあります。

それは、内容証明郵便が無事に届くか、訴状が無事に送達できるか、という問題です。

内容証明郵便の場合は、宛先さえしっかりしていれば、受け取らせることはできるかもしれません。但し、あくまで交渉ですので、無視されればそれまでです。

訴状の送達については、いわゆる司法共助の問題があります。
該当国の領事館に依頼して送達をする「領事送達」、外務省経由で当該国の中央省庁を通じて送達する「中央当局送達」のほか、直接郵便で送ることで足りる場合もあるようですが、事案ごとに、裁判所が具体的な送達方法を指定することが多いようです。

また、訴訟は勝訴判決をもらうだけでは実際に金銭を回収できない場合が多く、その場合は強制執行をしなければなりません。
強制執行をするには、ある程度相手方の財産(不動産、預金、売掛金など)を捕捉していることが望ましいですが、それも容易ではありません。

要するに、当該業者が海外所在ということだけで、国内の業者を相手にする場合と比べてぐっとハードルが上がるということになります。

※司法共助とは、裁判所が事件を処理するにあたり、必要な事務を他の裁判所に依頼して嘱託することをいいます。国内で行われる場合と、外国との間で行われる場合があり、後者の場合は2国間や多数国間で条約を結ぶことが多いです。

2 刑事責任追及のハードル

一般論として、警察は、被害届や告訴状を受理したがらない傾向にあります。
それは、一度受理してしまうと事件として捜査を始めなければならないからです。
また、詐欺事件というだけで、ハードルが上がると思います。それは、事案の性質上、証拠が少なく、証拠収集が困難だからです。
単純に、手ぶらで相談に行っただけでは、被害届はまず受理されないと思ってよいと考えられます。

警察に被害届や告訴状を受理してもらうためには、事件として捜査するに値する証拠を集め、「捜査しなければならない」と思わせなければならないということになります。


費用感

1 弁護士費用一般

2004年に、弁護士報酬が自由化され、弁護士が自身の報酬基準を作成して自由に報酬を決め、クライアントが納得すればその金額を弁護士費用とすることが可能となりました。
したがって、弁護士費用は、弁護士により異なるというのが実情であり、その為一概に弁護士費用がいくらになるかをいうことはができませんが、日弁連の旧報酬基準(http://miyaben.jp/wordpress/wp-content/themes/miyaben/img/indication/expenses_kijun.pdf)から大きく乖離しない内容の報酬基準を定めている弁護士が多いように思います。

以下、日弁連の旧報酬基準に従って、参考例を説明します。

2 民事事件の費用

(1)オーソドックスな費用体系は、着手金・報酬制です。

着手金とは手数料であり、(事件処理が未了で終わった場合など例外を除き)事件の結果にかかわらず返金できない費用です。
報酬は、事件処理により何らかの成果を上げた場合にお支払いいただく費用です。
着手金は、相手に請求する(相手から請求される)金額を、報酬は、相手から獲得した金額(相手からの請求を免れた金額)を「経済的な利益」と考え、これを基準に算出することが多いと思います。
交渉事件と訴訟事件は、別の事件としてそれぞれ着手金と報酬を算定することが多いと思います。(ただし、交渉から引き続き訴訟に至った場合、一定の減額をすることも多いと思います。)

訴訟事件の場合を例に、日弁連の旧報酬基準では、大要、以下のとおりとなっています。
[着手金(税抜き)]
経済的な利益の額が
300 万円以下の場合 経済的利益の 8%
300 万円を超え 3000 万円以下の場合 5%+9 万円
3000 万円を超え 3億円以下の場合 3%+69 万円
3 億円を超える場合 2%+369 万円

[報酬(税抜き)]
経済的な利益の額が
300 万円以下の場合 経済的利益の 16%
300 万円を超え 3000 万円以下の場合 10%+18 万円
3000 万円を超え 3 億円以下の場合 6%+138 万円
3 億円を超える場合

具体的として示します。

着手金・報酬制を適用した訴訟事件で1000万円を請求する場合、事件の着手時に59万円(1000万円×5%+9万円)+消費税がかかります。
さらに、この訴訟で800万円を回収した場合、98万円(800万円×10%+18万円)+消費税をお支払いいただくことになります。
報酬については、相手方から実際に回収して預かった形のお金から控除して充当し、残金をお返しすることが多いでしょうから、この場合には、基本的に持ち出しはありません。
なお、強制執行を別料金として設定している場合は、別途費用がかかります。

(2)着手金・報酬制のほか、タイムチャージ制(1時間〇〇万円)の場合もあります。

2 刑事事件の費用

刑事事件の場合も、基本的には民事事件と同様、着手金・報酬制が多く、例外的にタイムチャージを適用する場合が多いと思います。
しかし、被害届や告訴状の提出に至るまで、何度も警察署に相談に同行したり、場合によっては単独で行くこともあり、民事事件に比べて、実働時間と実働内容が読みづらいという性質もあります。

日弁連の旧報酬基準では、大要、以下のとおりとなっています。
[着手金(税抜き)]
1件につき10万円以上

[報酬(税抜き)]
依頼者との協議により受けることができる。


弁護士としての限界

以上、「無登録海外FX業者」による出金停止の詐欺被害について、その対応方法などを説明しましたが、弁護士に依頼すれば、万事解決するというわけではありません。

弁護士は、情報と証拠がなければ闘えません。
情報と証拠があっても、その内容によっては闘えないことも往々にしてあります。
また、相手が海外に所在する場合、相手が誰なのか、海外のどこに所在しているのかなどの調査が必要ですが、それすら困難な場合もあります。
さらに、その調査ができても、郵便や送達が無事に届くのか、裁判しても強制執行ができるのかなど、相手が国内に所在する場合に比べていくつもの高いハードルがあります。

もちろん、できる限りのアドバイスはしますが、ご相談をお受けしても、情報や証拠がなく、無駄に費用を使わせてしまうことはしたくありません。
そのような場合は事件を引き受けることが難しいということに、どうぞご理解いただければと思います。