オンラインカジノの摘発について
調査の契機
今年9月、オンラインカジノの決済サービスを運営し、利用者の賭博行為を助けたとして、サービス業者の運営責任者とシステム開発者ら複数名が逮捕されました(以下、「本事例」ということがあります。)。
https://www.sankei.com/article/20230927-CACVWF5ANRONNMTEZWJX5TZU5A/
当研究所では、オンラインギャンブルにおける無登録事業者の関与についても問題意識を持っていますが、上記の事件をきっかけに、海外オンラインカジノに対する取締りの現状を踏まえ、海外オンラインカジノに手を出したときにどんなことが起こり得るか、という点について、法的な観点から考察することとしました。
オンラインカジノの違法性
(1)オンラインカジノの「賭博」該当性
「賭博」(刑法185条、186条)の定義、及び、オンラインカジノがこれに該当することは、東京高裁平成18年11月28日判決が判示しています。
※東京高裁平成18年11月28日判決
ゲーム店に設置したパソコンを使用して、インターネットを介し、いわゆるオンラインカジノを運営する会社からオンラインゲームの配信を受け、同店舗内に設置したパソコンを使用して客にそのゲームを行わせていた行為についての刑事控訴審判決。
「弁護人の控訴趣意の論旨は、要するに、原判決は、被告人の原判示所為が刑法186条1項に該当するとして常習賭博罪の成立を認めたが、被告人の所為について賭博罪が成立する余地はないから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
しかし、刑法186条1項にいう賭博とは、偶然の勝敗に関して財物を賭けてその得喪を争うことをいうものと解されるところ、被告人の原判示所為がこれに当たることは明らかであるから、原判決に所論の法令適用の誤りがあるとは認められない。」
(2)「賭博」行為の性質
賭博は一人ではできません。
つまり、胴元がいて、賭博仲間などの相手がいて、初めて成立する犯罪です。
そのため、賭博行為の摘発においては、賭博場という場所の提供者、賭博行為をした者、金銭の流れを作る(または手助けする)ことで賭博行為に関与した者、これらすべての者が処罰対象になり得ます。
(3)賭博行為をした者
賭博罪の法定刑は、50万円以下の罰金又は科料(刑法185条)、常習賭博罪の法定刑は、3年以下の懲役(刑法186条1項)です。
海外を拠点にするオンラインギャンブルであっても、PCやスマホを使って日本から参加した場合は、その参加行為は日本国内で行われたものになるので、違法(犯罪)です。
実際に警察庁のホームページには、オンラインカジノを利用したことによって検挙された人たちの件数が公開されています。
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/onlinecasino.html
検挙件数は、2020年~2022年では、
2020年 16件 121人
2021年 16件 127人
2022年 10件 59人
とされています。
この数字を見て、実際にオンラインカジノを利用している人のうち検挙される人がほんの一握りであり、氷山の一角であることは明らかです。
もちろん、捕まらなければよいという話ではありません。
たとえ海外を拠点とするオンラインカジノであっても、日本国内から参加することは絶対にやめた方がよいです。
ところで、オンラインカジノというフレーズで記憶に新しいのは、2022年に、山口県で自治体から誤入金された金銭をオンラインカジノで消費してしまったという事件です。
この事件の裁判では、電子計算機詐欺罪(刑法246条の2)のみが問題となり、賭博罪は問題にならなかったようです(山口地裁令和5年2月28日判決)。
※ただし、調査に限界があり、賭博罪について実際に捜査が行われたか否かは不明な部分があります。
(4)決済業者
海外に拠点を置く場合、現行法では取締りが困難ですが、日本に拠点を置く場合、日本の法律が適用されます。
ア 常習賭博での摘発事例
2016年2月、オンラインカジノが利用できる国内口座サービスを運営し客に賭博をさせたとして、常習賭博(刑法186条1項)の疑いで、このサービスを運営していた複数名が逮捕されました。
http://www.chibanippo.co.jp/news/national/304724
この事件は、全国で初めてオンラインカジノを摘発した事件として話題になりました。
ただ、決済事業者に「常習賭博」の疑いがかかった事件であり、本事例とは少し異なります。
イ 本事例
本事例で決済事業者に疑いがかかったのは、「賭博」の「幇助」(刑法185条、刑法62条)です。
【幇助について】
複数の者が関与する犯罪行為のなかには、正犯と従犯がいる場合があります。
正犯は実行犯のことであり、もちろん刑罰の対象となりますが、実行犯の行為を手助けしたり、手伝ったりした従犯も刑罰の対象となります。
幇助は従犯の一類型です。
もっとも、従犯はあくまでサブ的な立場であることから、正犯の刑を減刑することとされています(刑法63条)。
あくまで犯罪類型や被害状況にもよりますが、捜査機関が正犯のみに重きを置き、従犯は逮捕まではしないという類型もあり得るところです。
本事例において、逮捕された決済業者は、正犯の「賭博」の従犯である「幇助」の疑いで逮捕されているわけです。
2016年2月の事例のように「常習賭博」ではなく「幇助」で逮捕したのは、捜査機関の判断ではありますが、賭博行為そのものを行ったわけではなく、国内口座を提供して賭博行為の成立を手伝った、というナマの事実を法的に捉えるという意味では、「幇助」が適切な摘発形態のように思われます。
もっとも、賭博は一人ではできないという性質と、国内の顧客と海外のオンラインカジノを金銭的に繋げるという意味においては、決済事業者は重要な橋渡し役を担っており、決済事業者がいなければ海外オンラインカジノでの賭博は成立しない、と言っても過言ではありません。
この点を踏まえれば、従犯として減刑されてしまう幇助(刑法63条)での摘発が、処罰の程度として、果たして十分なのか疑問が残るところです。
「橋渡し役」を担う決済代行業者の法的責任については、別の記事で深堀したいと思います。
捜査機関があえて「幇助」まで捜査の範囲を広げた背景には、昨今のオンラインカジノの普及のほか、広い意味でのインターネットを使った犯罪類型であるオンライン詐欺などの組織犯罪の増加による取り締まり強化があるのではないでしょうか。
まとめ
オンラインカジノの運営会社が利用している決済事業者は、銀行法に基づく免許を受けている「銀行」や、資金決済法に基づく登録を受けている「資金移動業者」ではなく、日本の登録を受けていない海外の資金移動業者がほとんどであると考えられます。
本事案において逮捕されたのは国内の決済事業者ですが、海外オンラインカジノと顧客の橋渡し役となる決済事業者について、「幇助」まで広げて捜査をし、逮捕にこぎつけた点に鑑みると、今までは腰が重かった、現行の国内法では取り締まることが困難な海外オンラインカジノの摘発に本格的に乗り出したように思われます。
このこと自体は良い傾向だと考えますが、国内での賭博の検挙件数が極めて少ない点をみると、オンラインカジノの違法性が、国民にまだまだ浸透していない現状が見られます。
政府をはじめ、金融庁当局においては、街頭広告のみではなく、テレビやラジオ、インターネットなどを使い、さらに本格的にオンラインカジノの違法性を啓発していく必要があると考えられます。