無登録資金移動業者とは

資金移動業とは

資金移動業とは、定義されている資金決済法によると「銀行等以外の者が為替取引を業として営むこと」とされています。

これは、よりわかりやすくすると、「銀行以外の者が、顧客の指示によって顧客の資金をAからBへ移動することを事業として行うこと」になります。具体例では、最近台頭してきた「割り勘」アプリのように、複数の人から勘定の代金を受け取る場合や単純に親から子へ(又はその逆)仕送りする際に利用するサービスで、銀行が提供するもの以外のものを指します。

直接現金を自分がA地点からB地点に持っていき相手に渡すのではなく、第三者を経由してお金を渡す場合は「為替取引」になり、銀行以外がその行為を行うと「資金移動業」に当てはまるということになります。


資金移動業成立の経緯

もともと「為替取引*」、つまり資金をAからBへ移動することは、銀行が行う業務の一つで、銀行を定義する銀行法第2条に規定されています。この法律が制定されていた当時、「為替取引」は、支払手形の売買という形で行われていたため、銀行の独占業務の一つとされていました。

しかし、時代は変わり、ほとんどの人が銀行口座を持ち、インターネットで直ぐに商品やサービスを購入することができるようになり、為替取引における手形の売買という側面がなくなり、より早く、安く、安全に資金を移動するニーズも現れてきました。

この様な背景から、2010年4月に「資金移動業」という業種が資金決済法で定義されるようになり、銀行以外の業種でも、この為替取引を行えるよう法改正が行われました。


無登録資金移動業者とは

銀行以外でも為替取引を行うことができるようになったものの、誰でもすぐにできるものではなく、金融庁に、資金決済法に基づく「登録」を行わなければなりません。これは、顧客の資金を取り扱う関係上、無制限に誰でも行えるようになってしまうと、顧客の資金が着服される、犯罪行為に悪用されてしまう等、様々な問題が発生することが容易に想像できるからです。

現在、日本国内で資金移動業者として「登録」(営業が許されている)業者の一覧は以下のリンクから確認できます。

https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shikin_idou.pdf

この「登録」では、資金移動業を行う際に必要な社内体制が充分に整備されているか、顧客資金の安全性が確保されているか等が見られ、要件を満たしていると判断された際に初めて登録が可能になります。

しかし、これらの要件を満たすのは、簡単ではないため、無登録で資金移動業を営む業者が存在します。これらの事業者を「無登録資金移動業者」といいます。

また、海外の資金移動事業者で、現地では必要な許認可等を取得している事業者もいます。現地の法体系ではそれで充分かもしれませんが、日本の法律では、日本国内に在住している者に対して資金移動サービスを提供する場合、日本の資金決済法での登録が必須であるため、これらの海外事業者も「無登録資金移動業者」に該当します。これは、日本国内の水準での顧客保護を必要としているためです。


無登録資金移動業者を利用するリスク

「無登録資金移動業者」で取引する場合、社内体制における内部管理・内部監査が確立されているか明確でない、資金決済システムの安全性が確保されていない、顧客の資金の安全性が確保されていない、破綻した場合の顧客の資金が保全されない、テロ資金供与やマネー・ロンダリングなど組織犯罪に利用される可能性がある、などのリスクがあります。

海外の資金移動業者であれば、経営実態を容易に把握できない、法人登記・登録情報を完全に把握することが困難な場合が多い、資金の流れが不透明、所在地・連絡先が不明、個人情報の管理が杜撰などのリスクが加わります。

このように、「無登録資金移動業者」で取引することは、多くのリスクを伴います。

*法律上の「為替取引」とは、現金受け渡しを直接行わない取引をいいます。厳密には、

1 銀行法にいう為替取引

銀行法2条2項2号に、「銀行業」の行為の一つとして「為替取引を行うこと」が規定されていますが、銀行法には「為替取引を行うことが」が具体的に何かという定義は書かれていません。

このように、法文の解釈が必要なときは、裁判所の判例(裁判例)が参考になります。

【最高裁平成13年3月12日刑集55巻2号97頁】

銀行法2条2項2号は、それを行う営業が銀行業に当たる行為の一つとして「為替取引を行うこと」を掲げているところ、同号にいう「為替取引を行うこと」とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいうと解するのが相当である。

すなわち、銀行法にいう「為替取引を行うこと」とは、

①顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引受けること

②顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けて遂行すること

をいいます。

①と②の違いは、「遂行」の有無ですが、「遂行」がない場合でも、顧客から上記の依頼を引き受けるだけで(①)、最高裁によれば銀行法にいう「為替取引を行うこと」に該当するという解釈になります。

また

2 資金決済法にいう為替取引

資金決済法2条2項に、「この法律において『資金移動業』とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいう。」と規定されています。

この規定にいう「為替取引」は、銀行法にいう「為替取引」と同義と考えられています(逐条解説資金決済法)。

つまり、上記の最高裁判決を参考に、

①顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引受けること

②顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けて遂行すること

をいうと考えられます。

なお、資金決済法2条2項の「銀行等」とは、銀行、信用金庫、労働金庫などの金融機関をいいます(資金決済法2条17項各号)。

3 具体的な為替取引

最高裁判決にいう「為替取引」について、「隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組み」とはどのようなものなのでしょうか。

一般的には、①振込、②送金、③代金取立をいうと考えられています。(日常用語とは少し違う概念ですので注意が必要です)

①振込・・・受取人の預金口座に一定金額を入金する

②送金・・・預金口座を介さず、銀行を介して資金を送付する

③代金取立・・・金融債権に関して、支払人に請求して債務を履行させる(取り立てる)こと(代表例:手形・小切手による取引)

いわゆる決済サービスと言われるものは、上記①~③に当てはまるものが多く(多いのは①②です)、最高裁判決にいう「為替取引」に該当するものが多いといえます。

日常的に利用する銀行振込、クレジットカード決済も、「為替取引」に該当します。

なお、収納代行・代金引換サービスは、現時点では、最高裁判決にいう「為替取引」に該当しません。こちらは別の記事で説明します。